机上の空論
「私が産まれた瞬間にこの世界はできたと思うの」
『随分と大胆な発想だね』
「あなた、幽霊って信じる?」
『否定はしないけど、僕は信じないかな』
「どうして?」
『見たことが無いからね』
「そうでしょ、それと同じよ。私もわたしの産まれる前を見たことがないの。だから信じない」
『でも言葉や、文明があるだろう。それに実際に僕は君の産まれる前の20年間を知ってる』
「それを言うなら、幽霊だって心霊写真や、体験談を語る人は沢山いるわ。でもあなたは信じないんでしょ?一緒じゃない」
『一緒じゃないよ、だって、そしたら僕の記憶はどうなるのさ』
「心霊体験者の記憶はどうなるのよ」
『いくらなんでも君の話には根拠が無さ過ぎるよ。』
「あなたの幽霊はいない説と同じよ。逆に、私の説が間違ってると言い切れる根拠はどこにあるの?私は宇宙人の実験用マウスなの。こんな過去があって、こんな言語があって、こんな文化の中にマウスを掘り投げたらどうなるんだろう?って実験よ。あなたは私の唐突に投げる“私が産まれた瞬間にこの世界はできたと思うの”に対して、“随分と大体な発想だね”と答える為に用意された実験道具なのよ」
『あまりにも机上の空論が過ぎるよ。もし仮にそうだったとして、君は何をしたいんだい?』
「何もしないわ。もし、私の仮説が正解でも、不正解でも。どちらにせよ、こうしてあなたがここに来るまでの30分間、体を温める為に120円を財布から出して、缶コーヒーを握りしめるのよ。何も変わらないわよ。」
『悪かったよ。何かおごるから』
「それは悪く無い発想ね。」
『君の為の実験道具らしいからね』
「あなたって本当ヤな人」
こうして2人は手を繋ぎながら夜の街へ消えて行きましたとさ。
めでたしめでたし。