ドエム
朝起きたら、地球上にはドMがひとり。
人がすっかり消え失せて、雀の声だけが響く朝。
メイド服をパジャマにした男が起床。
睡眠中に取れたカチューシャを頭に付ける。
欠伸をしながらやけに静かな朝だなぁ、と思う。
わざわざ装着したカチューシャとふりふりのメイド服を脱いで、ビジネススーツに腕を通す。
茶色の革靴をはく。
玄関を出て、駅に着いた頃に彼は気付く。
あれ?誰もいない、、?
勿論電車の音もない、
すいませーん。
呼びかけても反応はない。
この異様な空気、携帯を取り出す。
電話は繋がるが、誰も出ない。
ヤフーニュースが更新されていない。
不可思議な朝。
タクシーもいない。三駅先の会社まで歩いてみる。
勿論すれ違う人もいない。
テレビには何も映らない。
野良猫はいつも通りだな。
でも、餌付けババァが今日はいない。
会社についても誰もいない、スーパーマーケットにもコンビニにも、行きつけのこってりしたラーメン屋にも、離婚して別居中の妻も、月一で通うSMクラブにも誰も何もどこにも、人がいない。
この時、ドMは何を思うんだろうか。
地球規模で行われる放置プレイを楽しむのか?
メイド服で街を歩くのか?
もっと酷い格好もするのか?
このアンニュイな空間に発情したりするのだろうか?
でも、亀甲縛りの達人はもういない。
言葉攻めもしてくれない。
ヒールに込められた快感を2度と味わえないかもしれない。
朝起きたら、地球上にはドMがひとり。
彼は何を思うんだろう?